この記事の要点
やりたいことが決まっていなくても、独立を考えること自体は進められます。動機は「欲求追求型」と「危機回避型」に分けて整理でき、危機回避型からの独立も成り立ちます。先に確かめたいのは、過去の出来事と感情から自分の性質を見出すこと、会社員時代に得たスキルを書き出すこと。その二つを掛け合わせてから、市場で反応を聞きにいく順番です。
公開日 2026-11-07 執筆:原本 昌悟(ノルツ株式会社 代表取締役)
やりたいことがないまま独立を考えてもいいのか?
やりたいことが決まっていない状態でも、独立に向けて考えを進めることはできます。消去法で独立した人も、独立したあとにやりたいことが見つかった人もいます。先に必要なのは「やりたいこと探し」より、自分の動機がどこから来ているかの整理です。
「独立したい気持ちはあるのに、やりたいことが出てこない」という状態は、よくある状況です。ノルツ株式会社代表・原本も、まさにそこから始めています。
「独立したい、独立したいけどもやりたいことがないっていう時に、私もまさにそうだったんで分かるんですけれども、何を考えたらいいのかっていう話をしていきます。」
やりたいことが先にあって独立する人ばかりではありません。消去法で独立した人もいれば、独立してからやりたいことが見つかった人もいます。つまり「やりたいことが決まっていないから動けない」という前提自体を、いったん外して考えられます。
代わりに最初に手をつけられるのは、次の順番です。
- 自分の動機がどの型から来ているかを整理する
- 過去の出来事と感情から、自分の性質を見出す
- 会社員として得たスキルを書き出す
- 性質とスキルを掛け合わせてサービスの形を考える
- 市場に持っていって反応を聞く
やりたいことを思いつこうとするのではなく、すでに自分の中にある材料を並べ直す作業から始める。それが、やりたいことがない段階でも進められる動き方です。
独立の動機は「欲求追求型」と「危機回避型」のどちらなのか?
人の動機は「欲求追求型」と「危機回避型」の二つに分けて考えられます。やりたいことがあって進む人が前者、このままだとまずいと感じて動く人が後者です。原本は後者の危機回避型として独立しました。どちらの型でも独立は成り立ちます。
独立の動機を一つの物差しで測ると、「やりたいことがないから自分はダメだ」という結論に行きがちです。そこで、動機を二つの型に分けて見ます。
| 型 | 動機の出どころ | よくある状態 |
|---|---|---|
| 欲求追求型 | やりたいこと・実現したいことがある | 作りたいサービスや関わりたい分野が先に決まっている |
| 危機回避型 | このままだとまずい、という想像 | やりたいことは言語化できていないが、動きたい気持ちはある |
原本自身は危機回避型でした。
「私自身はどっちかっていうと、危機回避型ですね。このままサラリーマンを続けていっても、恐らく人生どっかで詰んでしまうんじゃないかっていう、そういうところを想像しまして、それで独立をしたという経緯がございます。」
危機回避型の動機は、実際には珍しいものではありません。会社員を続けていても将来が厳しいと感じている人は多い、というのが原本の所感です。転職を繰り返してきて、そろそろ転職という手段が使いにくくなってきた、というケースもあります。
自分がどちらの型かを決めること自体がゴールではありません。危機回避型だと分かれば、「やりたいことが出てこないのは当然で、別のところから材料を集めればいい」と切り替えられる。その切り替えのために使う整理です。
やりたいことがないとき、最初に何を考えればいいのか?
原本がやりたいことがなかったときに取った方法は「ミッションを作る」ことでした。やりたいことを思いつこうとするのではなく、自分が何に反応する人間なのかを先に言語化します。材料は、過去の記憶に残っている出来事と、そのときの感情です。
「やりたいことは何か」と自問しても、答えが出ないまま時間が過ぎることがあります。原本が取った方法は、問いの立て方を変えることでした。
「独立したい、独立したいけどもやりたいことがないっていう時に、私もまさにそうだったんで分かるんですけれども、何を考えたらいいのかっていう話をしていきます。それがですね、ミッションを作ることなんです。」
ここでいうミッションは、立派な理念の文章を書くことではありません。自分の人生で何に感情が動いてきたかをたどり、自分の性質を言葉にしていく作業です。
この順番で考えると、次のような変化が起きます。
- 「やりたいことを探す」から「自分の性質を知る」に問いが変わる
- 思いつきではなく、すでに起きた事実(過去の出来事)が材料になる
- 性質が見えると、やりたいことの方向が後から輪郭を持ちはじめる
原本は、自分がどんな性質かが分かってくると、それが自分のやりたいこととほぼ直結している、と語っています。やりたいことは、ゼロから発明するものではなく、過去の記憶の中から抽出するもの、という考え方です。
自分の性質は、どうやって分析すればいいのか?
過去の記憶に残っている出来事をすべて書き出し、そのときに自分の感情がどう動いたかを書き足していきます。記憶に残っていない出来事は飛ばして構いません。出来事と感情の組み合わせから、自分がどういう性質を持っているかを読み取ります。
原本が実際に行った手順は、次のとおりです。
- 自分の人生における、記憶に残っている出来事をすべてリストアップする
- 入学式のように、記憶に残っていない出来事は飛ばす
- 転んで怪我をした、といった細かい出来事でも、記憶に残っているなら書く
- その出来事のときに、自分の感情がどう動いたかを書いていく
- 出来事と感情の動きから、自分がどういう性質を持っているかを分析する
記憶に残っていない出来事を飛ばしてよい理由は、はっきりしています。
「その記憶に残ってるってことは感情が動いてるってことだと思うので、その時に自分の感情がどのように動いたのかっていうのをまた書いていったりします。」
この作業を進めた結果、原本の場合は「人の話を聞くことが好き」「考えることが好き」「分析することが好き」という性質が見えてきました。そこから、人の話を聞いて一緒に考え、整理し、分析して、ゴールに向かって進めていく伴走支援という方向性が立ち上がり、今の起業支援の仕事につながっています。
やることは、思い出せる出来事を並べて、感情を書き足すだけです。立派な自己分析ツールがなくても、紙とペンで今日から始められます。
性質とスキルは、どう掛け合わせてサービスにするのか?
性質を見出したら、会社員時代に身につけたスキルを別のリストとして書き出します。原本の場合はホームページ制作、デザインソフトを使った名刺・チラシ制作、動画編集、SEO対策でした。性質とスキルを掛け合わせることで、提供できる立ち位置が決まります。
性質だけでは、仕事の形になりません。スキルだけでも、何のためにやるのかが決まりません。原本は、この二つを分けてリストアップしました。
| リスト | 原本の場合 | 見つけ方 |
|---|---|---|
| 性質 | 人の話を聞くことが好き/考えることが好き/分析することが好き | 記憶に残っている出来事と感情の動きから読み取る |
| スキル | ホームページ制作、デザイン系ソフトでの名刺・チラシ制作、動画編集、SEO対策 | 従業員時代に実務でやってきたことを書き出す |
原本自身の言葉では、こう整理されています。
「自分は人の話を聞いて、考えて分析して、答えを出していく、そういうのが好きであって、それで自分はその、Web制作周りの色んなことができる、そのスキルもリストアップする。」
この掛け合わせの結果、原本は起業支援の中でも、クリエイティブやSEO対策といった成果物を提供する立ち位置に落ち着きました。伴走支援という性質側の方向と、Web制作周りのスキル側の資産が重なった場所が、提供の形になったということです。
やりたいことがない段階でまず着手するのは、この二つのリストです。
「まずは自分の性質をちゃんと見出すことと、あと自分の従業員等々を通じて得たその自分のスキルを見つけること、この2つを一番最初にやった方がいいかなと思います。」
スキルの棚卸しについては、専門スキル以外に書き出したいことも含めて起業・独立前のスキル棚卸しで詳しく整理しています。
今の職種の延長で独立するのは問題ないのか?
やってきた職種でそのまま独立すること自体は問題ありません。原本もホームページ制作の従業員から、そのままホームページ制作事業で独立しています。あわせて決めておきたいのは「なぜそれを行うのか」と「誰にどう提供するのか」の二つです。
会社員として積み上げた職種は、独立後の一番確かな資産です。そのまま事業にすることは、十分に合理的な選択です。原本も、同じ道筋で独立しています。
「私の場合はですね、正直ちょっとこれは反省点なんですけれども、ホームページ制作をずっと従業員でやっていまして、そのままホームページ制作事業で独立をしてしまったんですね。」
原本が反省点として挙げているのは、職種の延長で独立したことそのものではなく、そこに添えるべき二つの答えを用意していなかった点です。
- なぜその仕事を行うのか(性質やミッションとのつながり)
- 誰にどのように提供するのか(対象と提供のしかた)
この二つを先に言葉にしておくと、同じスキルでも提供の形が変わります。原本の場合は、伴走支援という性質とWeb制作周りのスキルを掛け合わせた結果、成果物を提供しながら一緒に考える立ち位置に落ち着きました。
今の職種で独立すると決めているなら、やることはシンプルです。スキルはそのまま使い、「なぜ」と「誰に」の二つだけ、独立前に書き足しておく。それだけで、独立後に打ち出す内容がはっきりします。
分析したあと、動機が本物かどうかはどう確かめるのか?
性質とスキルを掛け合わせたサービスを考えたら、実際に市場に持っていきます。いろいろな人の話を聞いたり、売ってみたりして、ニーズがあり実際にお金が払われる内容を見つける。分析は机の上で完結させず、反応で確かめる段階まで進めます。
性質とスキルの整理は、あくまで仮説を作る作業です。その仮説が仕事として成立するかは、市場に出さないと分かりません。原本も、性質とスキルを掛け合わせた上で、実際に市場に出して多くの人の話を聞いたり売ってみたりすることで、ニーズがあり実際にお金が払われる内容を見つける必要がある、と述べています。
確かめる順番は次のとおりです。
- 性質のリストとスキルのリストを書き出す
- 二つを掛け合わせて、提供できるサービスの形を仮に決める
- 想定する相手に話を聞き、反応を見る
- 実際に売ってみて、お金が払われる接点を探す
- 反応をもとに、提供内容と相手を調整する
「いくらなら払うか」まで踏み込んで聞く方法は起業前の需要リサーチの質問のしかたに、会社員のうちに小さく売ってみる進め方は独立前のテスト販売でやっておくことにまとめています。
原本自身も、やりたいことがない状態から始めています。
「独立したいけどやりたいことがないっていう場合は、私も全然そういうタイプだったんでね、まずは自分をしっかりと分析してみるっていうことをやってみてはいかがでしょうか。」
次にやることは、記憶に残っている出来事を書き出すこと、そして会社員として身につけたスキルを並べること。この二つのリストができたら、掛け合わせて市場に聞きにいく段階に進めます。
よくある質問
やりたいことがないまま会社を辞めてもいいですか?
やりたいことが決まっていない状態でも、独立に向けた準備は進められます。消去法で独立した人も、独立後にやりたいことが見つかった人もいます。ノルツ株式会社代表・原本も「独立したいけれどやりたいことがない」タイプから始め、過去の出来事と感情から自分の性質を言語化するところから進めました。辞める時期の判断とは別に、性質とスキルの棚卸しから着手できます。
独立の動機が「今のままだとまずい」という危機感でも大丈夫ですか?
動機は「欲求追求型」と「危機回避型」に分けて考えられ、危機回避型からの独立も成り立ちます。原本自身が危機回避型で、このまま会社員を続けていても人生のどこかで行き詰まるのではないかと考えたことが独立の経緯でした。危機回避型だと分かれば、やりたいこと探しではなく性質とスキルの整理に軸足を移せます。
ミッションを作るとき、何から書き出せばいいですか?
自分の人生で記憶に残っている出来事をすべてリストアップし、そのときに感情がどう動いたかを書き足していきます。入学式のように記憶に残っていない出来事は飛ばして構いません。転んで怪我をした、といった細かい出来事でも、記憶に残っているなら書きます。記憶に残っているということは感情が動いたということなので、出来事と感情の組み合わせから自分の性質を読み取ります。
性質とスキルは、どちらを先に整理すればいいですか?
原本は、性質を見出すことと、従業員などを通じて得たスキルを見つけること、この二つを一番最初にやるとよいと述べています。順番よりも、二つを別のリストとして分けて書くことが要点です。原本の場合は、人の話を聞く・考える・分析することが好きという性質と、ホームページ制作・名刺やチラシの制作・動画編集・SEO対策というスキルを掛け合わせ、今の提供内容につながりました。
今の職種でそのまま独立するのは避けたほうがいいですか?
やってきた職種でそのまま独立すること自体は問題ありません。原本もホームページ制作の従業員から、そのままホームページ制作事業で独立しています。あわせて用意したいのは「なぜその仕事を行うのか」と「誰にどのように提供するのか」の答えで、原本はこの二つを考えないまま独立したことを反省点として挙げています。スキルはそのまま使い、この二つを書き足す進め方が現実的です。
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