この記事の要点
起業前のリサーチは「どう思いますか」ではなく「いくらなら払いますか」まで聞きます。感想には相手の気遣いが混ざりますが、払う金額には本気度がそのまま出ます。ペルソナに実物やサンプルを見せたうえで金額をたずね、お金になるのかならないのかまで突き詰める。目的は、事業内容とマーケットの反応のズレをなくすことです。
公開日 2026-10-13 執筆:原本 昌悟(ノルツ株式会社 代表取締役)
起業前のリサーチで本音を聞くには、どう質問すればいいですか?
質問の軸を「感想」から「金額」に変えるのが出発点です。代表・原本は、具体的にいくらなら払うのか、お金になるのかならないのかまで突き詰めて聞いたほうがよいと語っています。感想は無料で言えますが、金額は相手が自分の財布を想像しないと答えられません。
リサーチの質問は、大きく三段階に分けて考えられます。下にいくほど、相手が答えるために自分の判断を使うことになります。
- 感想を聞く:「どう思いますか」——相手のコストはゼロ。好意的な言葉が返りやすい。
- 自分事として聞く:「こういう場面で使いますか」——相手の生活や仕事に当てはめてもらう。
- 金額を聞く:「いくらなら払いますか」——相手が払う側として判断する。
代表・原本は、起業前のリサーチについてこう語っています。
もう具体的にいくらだったら払うのか、これはお金になるのかならないのか、そこまで突き詰めて質問していった方がいいんじゃないかな
聞きたいのは「良さそう」かどうかではなく、「お金が動くか」です。金額まで聞くと、価格の感覚が合っているのか、そもそも買う対象として見られていないのかが分かれて見えてきます。
「この商品どう思いますか」と聞くと、どんな回答が返ってきますか?
気遣いの入った肯定が返ってきやすくなります。代表・原本は、その程度の質問だと「いいんじゃないですか」という忖度した返答がきてしまうと語っています。悪気のない好意的な一言が、判断材料にならないまま自信だけを増やしてしまう形です。
取材で語られた言葉をそのまま引くと、次のとおりです。
「この商品とかサービスどうですか、どう思いますか」ぐらいの質問だと、「いいんじゃないですか」っていう忖度した返答がきてしまうと思います
これは相手が不誠実だから起きることではありません。聞かれた側からすると、目の前の人が時間をかけて考えてきたものを否定する理由がないからです。だから、肯定が返るのは自然な反応だと考えておくほうが健全です。
質問の言い換え例
- 「どう思いますか」→「今これにいくらまでなら出せますか」
- 「使いそうですか」→「月に何回使いますか。そのとき1回いくらまでですか」
- 「あったら便利ですよね」→「今は代わりに何を使っていて、それにいくら払っていますか」
言い換えのポイントは、相手に「評価」をさせるのをやめて、「自分の行動と支出」を答えてもらうことです。答えに数字が入るほど、こちらの判断材料になります。
「いくらなら払いますか」は、どういう順番で聞けばいいですか?
説明だけで金額を聞くと答えが曖昧になります。代表・原本は、起業前の準備として、ペルソナに実際に商品やサービスを見せたり食べてもらったりしたうえで、いくらなら払うかを具体的に聞く方法を薦めています。体験を先に置いてから金額を聞く順番です。
- 聞く相手を決める:誰に売る事業なのかを先に決め、その条件に合う人に聞く。誰でもいい状態で聞くと、答えもばらけます。
- 実物・サンプルを見せる:商品なら見せる、食べ物なら食べてもらう、サービスなら実際の画面や成果物を見せる。想像で答えさせないことが要点です。
- 今の代替手段を聞く:今は何でその用事を済ませているか、それにいくら使っているかを聞く。相手の中の相場が見えます。
- 金額を言ってもらう:こちらから価格を提示する前に、相手の口から金額を出してもらう。先に値段を言うと、それが基準になってしまいます。
- 買う場面まで詰める:いつ、どんなときに、どこで買うかまで聞く。ここで言葉が詰まるなら、金額の答えはまだ本気の数字ではないと見ておきます。
この方法は、一度始めると事業の方向を変えにくい店舗ビジネスの準備として語られたものです。無形商材でも、金額まで聞く姿勢そのものは同じように使えます。
リサーチで確認したいのは、結局なんですか?
確認したいのは、自分が考えている事業内容と、マーケットの反応のズレです。代表・原本は、起業の準備の目的はホームページ・名刺・チラシといった制作物をそろえることよりも、このズレをなくすことに置くべきだと語っています。
代表・原本自身は、ホームページ制作業で起業したとき、ホームページと名刺はあったものの、チラシ・営業資料・契約書・キャンペーンなどの訴求ポイントが用意されていない状態で営業を始めています。営業のやり方が分からず交流会に参加するところから始め、足りないものに気づくたびに作り、直しながら進めました。
そこで結構半年近く使ってしまったので、やっぱり事前にちゃんと準備していれば、もっとスムーズに営業できたのかなというふうに反省する部分はあったりします。
ここから言えるのは、制作物の有無より先に「誰に、何を、いくらで」が噛み合っているかを確かめておくと、その後の営業が早くなるということです。だからリサーチで集めたいのは感想ではなく、金額と、買う場面の具体性になります。
リサーチ後に手元に残したい情報
- 相手が言った金額(幅ではなく、一度は具体的な数字で)
- 今の代替手段と、そこに払っている金額
- 買う場面(いつ・どんなときに必要になるか)
- 金額を聞いたときに言葉が止まった箇所
店舗ビジネスと無形商材で、リサーチの深さは変えるべきですか?
変えてよい、というのが代表・原本の判断軸です。店舗は一度建てると外装・内装を大きく変えられず事業転換がほぼ不可能なため綿密な準備が必要で、無形商材はピボットしやすいため最低限の準備で動き出し、反応を受けて変えていく形が合うと語っています。
| 観点 | 店舗ビジネス | 無形商材 |
|---|---|---|
| 始めた後の転換 | 外装・内装を大きく変えられず、転換がほぼ不可能 | ピボットしやすい |
| リサーチの掛け方 | 綿密に。ペルソナに実物を見せ、食べてもらい、金額まで聞く | 最低限の準備をしたら動き、反応を見て変える |
| 判断のしかた | 始める前に、お金になるかの見極めを済ませる | 始めてから、改善スピードで合わせていく |
どちらの場合も、聞く内容そのものは「いくらなら払うか」で共通します。違うのは、その答えを得るまでにどれだけ時間をかけるか、という配分です。やり直しのコストが高い事業ほど、前倒しでお金の質問をしておく価値が上がります。
リサーチに時間をかけすぎると、どんなことが起きますか?
調べているあいだにマーケット自体が動く、ということが起きます。代表・原本は、起業後の外部環境の変化を実際に経験しており、「予想外のことしか起きない」と語っています。だから準備は、完璧を待つのではなく動きながら整える形を選んでいます。
代表・原本が経験した変化は、取材では次のように語られています。
- ホームページ制作事業で会社を作ってから半年ほどでコロナ禍に入った。
- ホームページ制作スクールの流行で、「無料でいいので実績作りのために制作させてください」という人が溢れ、ホームページ制作でそのまま進むのはほぼ不可能というマーケットになっていた。
- コロナ禍が明けた頃、ChatGPTが日本中に普及した。
- そこから2年ほどでAIエージェントによる業務自動化が進んだ。
準備が整ってから起業しようというふうに発想した場合は、おそらく起業することができないんじゃないかな
予想外のことしか起きないって言っていいと思います。もう予想外だらけですね。
リサーチを長く続けるほど情報は増えますが、その情報が指している市場も同時に動きます。だから「いくらなら払うか」を短い期間で何人かに聞き、出てきた数字で一度決める。決めたあとは、反応を見ながら直す。この回し方のほうが、変化には追いつきやすくなります。
リサーチと並行して、お金はどこまで準備しておくべきですか?
事業内容の準備とお金の準備は分けて考えるのが、代表・原本の整理です。事業内容は動きながら直せますが、お金の準備は時間をかけてやっておくべき部分だと語っています。世間では、起業したら半年ほど収入がなくても動けるように準備すると言われています。
取材で語られた言葉は次のとおりです。
起業したら大体半年ぐらいは収入なくても動けるように準備するって言われている
これは代表・原本自身の実績数値ではなく、世の中で言われている目安として挙げられたものです。実際にいくら必要かは、事業の形と生活費で変わります。
考え方を整理すると、こうなります。
- お金の準備:事業計画とは別枠で、時間をかけて用意する。動ける期間がそのまま、改善を続けられる回数になります。
- 事業内容の準備:「何を売るか」「どう売るか」は、マーケットの反応で変わる前提にしておく。ここに時間をかけすぎると、市場のほうが変わってしまいます。
なお、創業時に使える公的な支援策や制度は内容が変わることがあります(2026年9月時点)。利用を検討する場合は、中小企業庁などの最新の公式情報や公募要領、必要に応じて専門家に確認してください。
聞いた答えは、どう読み分けて次に動けばいいですか?
返ってきた答えは「金額が出たか」「買う場面まで具体的に話せたか」の2点で読み分けます。金額が出たなら価格の検証に進み、出なかったなら売り先か売り方を変える。どちらにしても次の行動が決まるのが、金額まで聞く質問の利点です。
答えの読み分け方
| 返ってきた答え | 読み取れること | 次にやること |
|---|---|---|
| 具体的な金額が出て、買う場面も話せる | お金になる可能性がある | その金額を前提に、小さく売ってみる |
| 金額は出るが、使う場面が曖昧 | 好意はあるが必要性が弱い | 用途を絞り、場面を一つに決めて聞き直す |
| 「いいと思います」で金額が出ない | 判断材料にならない反応 | 相手を変える、または実物を見せてから聞き直す |
| 今払っている代替手段の金額が高い | すでに支出がある領域 | その支出と比べられる形に商品を整える |
今日からできるのは、質問文を一行書き換えることです。「どう思いますか」を消して、「いくらなら払いますか」「今は何にいくら払っていますか」に置き換える。そのうえで、実物やサンプルを見せてから聞く順番にする。それだけで、集まる言葉が感想から数字に変わります。
ノルツの起業支援では、こうした聞き方の設計や、集まった答えをどう値付けと事業計画に落とすかを、月額の顧問型で毎月一緒に考えています。気になることがあれば、LINEかお問い合わせフォームから声をかけてください。
よくある質問
知り合いにリサーチしても意味がありますか?
知り合いは好意的な答えを返しやすいので、感想を聞く相手としては向きません。ただし「いくらなら払いますか」「今は何にいくら払っていますか」のように、金額と現在の支出を聞く質問であれば判断材料になります。聞き方を変えれば、相手が誰であっても数字で話を進められます。
相手に先に価格を伝えてから感想を聞くのはどうですか?
こちらが先に金額を出すと、その数字が基準になってしまい、相手の中の相場が見えなくなります。実物やサンプルを見せたうえで、相手の口から金額を言ってもらう順番にすると、価格の感覚がどれくらいずれているかを確認できます。
何人くらいに聞けば判断できますか?
取材では人数の目安は語られていません。重要なのは人数より、相手が売りたい相手の条件に合っているか、実物を見たうえで金額を答えているかです。短い期間で何人かに聞き、出てきた数字で一度決めて動き、反応を見て直す回し方が、市場の変化には追いつきやすくなります。
無形商材でも、金額を聞くリサーチは必要ですか?
無形商材はピボットしやすいため、最低限の準備で動き出し、反応を受けて変えていく形が合います。それでも「お金になるのかならないのか」を聞く姿勢は同じです。実際の画面や成果物を見せて金額をたずねれば、始めた後の修正が早くなります。
リサーチの前にホームページやチラシを作るべきですか?
制作物をそろえることよりも、事業内容とマーケットの反応のズレをなくすことを目的に置くのが、代表・原本の考えです。実際に本人は、チラシ・営業資料・契約書・訴求ポイントがないまま営業を始め、改善に半年近くを使っています。先に金額を聞いて噛み合いを確かめておくと、作るものも決まりやすくなります。
参考・出典
- ノルツ株式会社 代表取締役・原本 昌悟 へのインタビュー(一次情報)(2026年9月時点)
- 中小企業庁(創業・中小企業支援に関する公的情報)(2026年9月時点)
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