一人起業のミッションの作り方

「志」は、頭で考えるより過去の中から掘り出す

この記事は、ノルツ株式会社代表・原本が、自身の起業時に実際にやった「ミッションの言語化」の手順をもとに書いています。何のために起業するのかが言葉にならず、立ち止まっている方へ。

この記事の要点

一人起業のミッションは、白紙から「志」を考えるのではなく、過去の棚卸しで掘り出すのが作り方の核心です。手順は3つ。①人生を時期で区分し、感情が動いた出来事を各5〜10個書き出す、②それぞれに丸・×・三角をつける(丸と×に振り切る)、③感情を抽象語に言語化して集計する。繰り返し現れる丸=強み、×=ペインで、「強みでペインを解決する」組み合わせがミッションの輪郭になります。消去法で起業した人でも後から言語化できます。

「ミッションが大事だと言われても、自分が何のために起業するのか、正直まだ言葉にできない」。創業期の方から、よくこうした相談を受けます。実は私自身も、起業したときに志らしい志を持っていませんでした。サラリーマンを続けるのが難しくなり、いわば消去法で独立した側の人間です。だからこそ、いきなり「あなたの存在意義は何ですか」と問われても何も出てこない感覚は、痛いほどわかります。それでも私は、ある手順を踏むことで、自分のミッションを少しずつ言葉にしていきました。この記事では、その「過去の棚卸し」という方法を、具体的な手順に分けてお伝えします。

方位磁石を手に持ち、自分の進む方向を確かめる日本人の手元

なぜミッションを「いきなり考える」と出てこないのか?

ミッション作りでつまずく人の多くは、白紙の状態で「自分は何のために生きているのか」を考え始めます。ところが、この問いはあまりに大きく、抽象的です。考えれば考えるほど、もっともらしい言葉を探しにいってしまい、本当の自分とはずれた「きれいごと」になりがちです。私が起業時に痛感したのも、まさにこれでした。未来に向かって志を発明しようとしても、地に足のついた言葉にはならないのです。

そこで発想を変えました。志は未来に発明するものではなく、すでに自分の過去の中に埋まっているものを掘り出す作業だ、と考えるようにしたのです。私が大切にしている言葉に「私が何のために存在しているのか、その答えは私の過去にある」というものがあります。これは、起業のミッション作りにそのまま当てはまります。

手順1:人生を区分し、感情が動いた出来事を書き出す

最初にやるのは、自分の人生を時期で区切ることです。たとえば「幼少期」「小学校」「中学校」「高校」「大学・社会人」といった具合に区分します。そして、それぞれの時期について、感情が大きく動いた出来事を各5〜10個、ひたすらリストアップしていきます。うれしかったこと、悔しかったこと、夢中になったこと、傷ついたこと——良し悪しは問わず、心が揺れた記憶をできるだけ多く挙げるのがポイントです。

この作業の狙いは、頭で「自分はこういう人間だ」と決めつける前に、実際の出来事という事実から自分を立ち上げ直すことにあります。記憶をたどると、自分でも忘れていたような場面が次々に出てきます。量を出すことが何より大切なので、最初から意味づけしようとせず、まずは思い出すことに集中してください。

ノートに手書きで思い出や感情を書き出す日本人

手順2:それぞれの感情に丸・×・三角をつける

出来事を書き出したら、次は一つひとつに「どんな感情だったか」を書き添えます。そして、その感情を良い・悪いで仕分けします。良い感情だったものには丸、悪い感情だったものには×、どちらとも言えないものには三角をつけていきます。

ここで一つコツがあります。三角はできるだけ減らし、丸と×に振り切ることです。「どちらとも言えない」を多く残すと、本質がぼやけてしまいます。多少強引でも、丸か×かに寄せて評価していくと、自分の傾向がくっきり浮かび上がってきます。判断に迷ったら、いまの自分がその記憶を思い出してポジティブになるか、ネガティブになるか、で決めて構いません。

丸=強み、×=ペインのサイン

丸がついている出来事には、あなたの「強み」や大切にしている価値観が隠れています。一方、×がついている出来事には、あなたが解決したいと感じる「ペイン(痛み)」が眠っています。このペインこそ、事業の核になり得るものです。

手順3:感情を抽象語まで言語化して集計する

丸・×をつけ終えたら、それぞれの出来事から感じた感情を、もう一段抽象的な言葉に翻訳していきます。たとえば「文化祭でみんなをまとめて達成したのが嬉しかった」なら「共感力」「人をまとめる力」、「理不尽なルールに納得できず反発した」なら「課題を見つける力」「正しさへのこだわり」といった具合です。挑戦したい、分析したい、人の役に立ちたい——こうした抽象語に言い換えていきます。

そして、出てきた抽象語を集計してみてください。すると、同じような言葉が何度も繰り返し現れることに気づくはずです。この「繰り返し出てくる言葉」こそ、あなたの本質です。一度きりの偶然ではなく、人生を通じて何度も顔を出してきたものだからこそ、信頼できる手がかりになります。丸の側に多く現れる抽象語があなたの強み、×の側に多く現れる抽象語があなたが解決したい人生のペインです。

強みとペインから、ミッションはどう組み立てるのか?

ここまで来ると、ミッションの材料はそろっています。あなたが繰り返し発揮してきた「強み」を使って、あなたが繰り返し痛みを感じてきた「ペイン」を解決する。この組み合わせが、ミッションの輪郭になります。たとえば、人をまとめる強みと、挑戦する人が孤立してしまうことへのペインが見えてきたなら、「挑戦する人を支え、つなぐ」といった方向性が立ち上がってくるわけです。

大切なのは、過去と方向性が一致した事業を選ぶことです。私はよく、過去とまったく違う方向の事業は失敗しやすい、とお伝えしています。極端な例を挙げれば、ずっとスポーツに打ち込んできた人が、まったく畑違いの分野でいきなり事業を始めても、芯から力が入りにくい。逆に、過去の延長線上にある事業は、苦しいときにも踏ん張りがききます。自分の過去という土台の上に事業を建てる——これがミッション作りの本質です。

志がないまま起業した人でも、ミッションは作れるのか?

ここまで読んで、「自分には語れるような過去がない」と感じた方もいるかもしれません。でも、安心してください。劇的な出来事は必要ありません。むしろ日常の中の小さな感情の揺れこそ、その人らしさをよく表します。消去法で起業した私自身が、この手順でミッションを言葉にできたのですから、特別な経歴は要らないのです。

志は、起業した後でも見つけられます。けれども一度言葉にしておくと、その後の意思決定がぶれにくくなります。どんな仕事を受けるか、誰と組むか、何を断るか——その判断のたびに立ち返れる軸ができるからです。私自身、志を持ってからは、出会う人との関係まで変わっていきました。その体験については、一人起業の孤独を「仲間」に変えた話でも詳しく書いていますので、あわせて読んでみてください。

実際にやってみると、どんな言葉が浮かび上がるのか?

イメージがわきにくいかもしれないので、抽象語が立ち上がる流れを少し補足します。たとえば「学級委員でクラスをまとめて行事を成功させたのが誇らしかった」「部活で後輩の相談に乗っていた時間が好きだった」「チームで一つの目標に向かったときが一番楽しかった」——こうした丸の出来事が並ぶと、そこからは「人を支える」「まとめる」「一緒に達成する」といった抽象語が繰り返し出てきます。これがあなたの強みの核です。

一方で「正しくない決定に黙って従わされたのが悔しかった」「頑張っている人が報われない場面に怒りを感じた」といった×の出来事が並べば、そこには「理不尽さ」「挑戦が報われない状況」といったペインが見えてきます。強み(人を支え、まとめる力)でペイン(挑戦する人が報われない状況)を解決する——こう並べた瞬間に、ミッションの方向性はぐっと具体的になります。あくまで一例ですが、自分の言葉でこの形に落ちると、納得感がまるで違います。

一人でミッション作りを進めるには、どうすればいいのか?

このワークは一人でもできますが、いくつか注意点があります。まず、一度で完成させようとしないこと。記憶は時間をおくと追加で出てくるので、数日に分けて書き足すくらいがちょうどよいです。次に、出てきた言葉を否定しないこと。「こんなの強みじゃない」と切り捨てると、せっかくの手がかりが消えてしまいます。最後に、できれば誰かに話してみること。声に出して説明すると、自分でも気づかなかった本音が見えてくることがあります。完璧な一文を最初から目指すより、ラフな言葉をいくつも出して、あとから磨いていく方が、自分にしっくりくるミッションにたどり着けます。

言語化を、一緒に進めます

過去の棚卸しは、一人だと途中で手が止まりがちです。ノルツの起業支援では、こうしたミッションの言語化を、問いを投げかけながら伴走します。「うまく言葉にならない」段階こそ、壁打ち相手の出番です。まずは気軽にご相談ください。

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