この記事の要点
事業の経費は、個人の財布の感覚ではなく「払った金額を上回るものが返ってくるか」で判断できます。本記事で整理した見方は、支出額・自社の商品単価と粗利・回収に必要な受注件数・回収までの期間の4つを書き出すこと。この4つを並べると、5万円が高いか安いかではなく、何件で回収できるかという比較に変わります。
公開日 2026-11-04 執筆:原本 昌悟(ノルツ株式会社 代表取締役)
起業すると、経費の感覚はどう変わるのか?
個人の家計では5万円は大きな出費ですが、事業では「その5万円を上回るものが返ってくるか」が判断の中身になります。金額の大きさそのものではなく、投じた額とリターンの関係で見る点が変わります。
ノルツ株式会社代表・原本は、独立した当初、事業の経費を個人の財布の感覚のまま捉えてしまったと話しています。
5万円とか10万円って聞くと、高い、それだけで高いって思っちゃうような感覚で動き出してしまいました。
会社員として給与の中からやりくりしていた感覚では、5万円や10万円は「出ていくだけのお金」です。一方で事業の支出は、そこから売上が戻ってくる可能性のあるお金です。同じ金額でも、置かれている文脈が違います。
個人の財布の感覚と、事業の投資判断の違い
| 見る項目 | 個人の財布の感覚 | 事業の投資判断 |
|---|---|---|
| 判断の基準 | 金額が大きいか小さいか | 投じた額を上回るものが返るか |
| 比べる相手 | 日々の生活費 | 自社の商品単価・粗利 |
| 時間の扱い | 今月払えるか | 何ヶ月で回収するか |
| 判断材料 | 感覚・なんとなく | 数字で書き出したもの |
最初にやることは、金額に反応する前に「この支出は何を返してくれる可能性があるのか」を一行で書いてみることです。書けない支出は、まだ判断材料が足りていないだけなので、情報を集めてから決めれば間に合います。
5万円の支出を高いと感じたとき、何を見れば判断できるのか?
本記事で整理した見方は、支出額・自社の商品単価と粗利・回収に必要な受注件数・回収までの期間の4つを並べることです。この4つを書き出すと「5万円は高い」という感想が「何件売れれば回収できるか」という比較に変わります。
代表・原本は、独立当初に大事だったのは数字で見ることだったと振り返っています。
あくまで個人の感覚ではなくて数字で見ていくっていうのが非常に大事だったりするんですけれども、そういったところを完全に、頭が空っぽの状態になってしまいまして。
この「数字で見る」を具体的な項目に落とすと、本記事では次の4つの整理になります。
- 支出額:一度きりなのか、月々かかるのかを分けて書く
- 商品単価と粗利:1件受注したときに手元に残る額
- 回収に必要な件数:支出額 ÷ 1件あたりの粗利
- 回収までの期間:何ヶ月で回収すると決めるか
たとえば月5万円の支出に対し、1件の受注で残る粗利が自分の事業ではいくらなのかを出せば、「月に何件で回収できるか」が出ます。その件数が自分の現実的な受注ペースの範囲内なら検討に値しますし、かけ離れていれば金額を下げるか、別の手段を探すという判断になります。
高いか安いかを考える前に、この4項目を紙かスプレッドシートに書く。これだけで、感覚による判断からは離れられます。
費用対効果は、どんな手順で確かめればいいのか?
本記事で整理した手順は、支出を月額に揃え、1件あたりの粗利と必要受注件数を出し、回収期間を先に決めてから始めるという流れです。開始前に「いつ・何を見て続けるか決めるか」を決めておくと、途中で感覚に引き戻されにくくなります。
費用対効果の確認は、次の順番で進めると整理しやすくなります。
- 支出を月額に揃える:年払い・一括払いは12ヶ月などで割り、月いくらの負担かを出す
- 1件あたりの粗利を出す:商品単価から、その案件にかかる外注費や材料費を引く
- 必要受注件数を計算する:月額の支出 ÷ 1件あたりの粗利
- 回収期間を決める:3ヶ月なのか6ヶ月なのか、始める前に期限を置く
- 見る数字を1つ決める:問い合わせ件数、受注件数など、判断に使う指標を先に決める
- 期限が来たら数字で判断する:続ける・金額を変える・やめるの3択で決める
始める前に決めておくと迷わなくなること
- 何ヶ月分の支出までなら出せるか(上限額)
- どの数字がいくつになったら成功とみなすか
- 判断する日はいつか
この3つをメモしておくと、途中で金額の大きさが気になってきたときも、決めた日まで数字を貯めるという行動に戻れます。次にやることは、いま検討している支出について、上限額・成功の数字・判断日の3つを書き留めておくことです。
なぜ創業期は、判断が感覚に寄ってしまうのか?
売上を立てなければという焦りが先に立ち、数字を並べて比べる余裕が持てなくなるためです。よくある状況で、判断の型を紙に用意しておくと、焦っていても数字に戻れます。
代表・原本は、起業した当初の状態をこう語っています。
営業しなきゃ営業しなきゃってその焦りばかりが頭の中を支配してしまって、ストック型のこういう集客のモデルっていうのを全然作らずにスタートしてしまったっていうところがございます。
焦りがあると、目の前で早く動けそうな手段に時間とお金が寄っていきます。代表・原本の場合は、異業種交流会にひたすら通って直接売ろうとする動き方になりました。
焦っているときほど効く、判断の置き場所
- 判断の型を1枚にしておく:支出額・粗利・必要件数・回収期間の4項目を書く用紙を用意しておく
- 即決しない支出ラインを決める:いくら以上は一晩置く、と自分でルールを決めておく
- 話す相手を決めておく:数字を一緒に見てくれる相手がいると、感覚だけで決めにくくなる
焦っている状態そのものは創業期によくあることです。意思の強さで抑えようとするより、判断の型を先に作っておくほうが続きます。今日できることは、4項目の記入欄をメモアプリに1つ作っておくことです。
回収までの期間が長い支出は、どう判断すればいいのか?
回収期間の置き方を、支出のタイプごとに変えて判断します。代表・原本は、SEO対策について最低でも数ヶ月、できれば半年以上の時間的猶予がある状態で着手するのが望ましいと話しています。短期で数字が出るものと、積み上げに時間がかかるものを仕分けるのが先です。
ノルツ株式会社代表・原本は、ホームページ制作・SEO対策・LP制作・広告運用を専門にしてきました。そのうえで、独立当初に最初にやればよかったと振り返っているのがSEO対策です。
私が最初にやればよかったなと結構後悔してるのがSEO対策になります。
理由は時間軸にあります。代表・原本は、成果が出るまでに最低でも数ヶ月、できれば半年以上の猶予がほしい性質のものだと述べたうえで、こう話しています。
切羽詰まった、お金がなくなった状態からスタートをすると、SEO対策で成果出るより会社倒産する方が先になっちゃいますんでね。
裏を返すと、資金にまだ余裕がある創業の早い段階は、積み上げ型の施策に着手しやすいタイミングだということです。支出を判断するときは、回収期間の欄に入れる数字がタイプによって変わる、と考えると整理できます。
時間軸で支出を分けて考える
| タイプ | 例 | 回収期間の置き方 |
|---|---|---|
| すぐ反応が出る支出 | 広告出稿、チラシ設置 | 短い期間を区切り、数字を見て続けるか決める |
| 積み上げに時間がかかる支出 | SEO対策などのストック型施策 | 数ヶ月〜半年以上の猶予を見込んで着手する |
次にやることは、検討中の支出がどちらのタイプかを仕分けることです。積み上げ型なら、資金に余裕があるうちに小さく始めておく判断ができます。ストック型とフロー型の組み合わせ方そのものについては、集客に関する記事であらためて扱っています。
支出先は、何を基準に選べばいいのか?
金額の大小ではなく、狙う相手がどこにいるかから選びます。代表・原本は、自分のターゲットのペルソナを決め、その人の行動パターンを想像し、その人がいる場所に接点を作る順番をすすめています。
代表・原本は、集客の経路としてこれらを挙げています。
- 異業種交流会
- チラシ設置
- 広告出稿
- SNS
- 展示会への出展
- インタビューなどのメディア掲載
実際に代表・原本は、交流会で案件を1件獲得し、チラシを設置できる場所にチラシを置いてそこから案件を獲得し、広告を出稿してそこからも案件を獲得しています。展示会への出展や、インタビューを受けてメディアに掲載してもらった経験もあります。
配分を決める前に考えること
自分のターゲットのペルソナをちゃんと考えていただいて、そのペルソナの行動パターンってどんな行動なんだろうなってことを想像していただくんですね。
どの経路にいくら払うかは、金額の大小からではなく、狙う相手がどこにいるかから決めたほうが筋が通ります。ペルソナが日常的に検索する人ならWeb側、特定の場に集まる人ならその場への出展や設置、という順で考えられます。
経路ごとに「何を数えるか」を変える
同じ金額でも、成果として数えるものは経路によって変わります。代表・原本は、起業して何年も経っている人に集客経路を聞くと「紹介です」という回答が圧倒的に多いと話しています。交流会に出る費用を判断するときは、その場で売れた件数ではなく、紹介してもらえる関係がどれだけできたかという見方に切り替えると評価しやすくなります。交流会そのものの使い方は、集客に関する記事でくわしく扱っています。
次にやることは、自分のペルソナを一人分書き出し、その人が時間を使っている場所を3つ挙げることです。支出の配分と、数える指標は、そのあとに決められます。
お金をかけても成果が出ないとき、どこを見直せばいいのか?
集客方法ではなく、商品設計・事業開発・サービス設計のほうに原因があるケースがあります。ニーズがあるか、その価格でお金を払ってもらえるかを先に確かめると、支出の判断もしやすくなります。
代表・原本は、個人事業の集客の悩みについて、集客方法そのものではなく、商品設計・事業開発・サービス設計(ニーズがあるか、お金を払ってもらえるか)に問題があるケースもあると話しています。
この見方が役に立つのは、支出を増やすかどうかを決める場面です。売れない理由が商品側にあるまま広告費を増やしても、費用対効果の数字は改善しにくくなります。順番としては、次の問いを先に確かめます。
- この商品を必要としている人は、具体的に誰か
- その人は、いまどうやってその困りごとを解決しているか
- 提示している価格で、実際に払ってもらえたことがあるか
- 断られたとき、理由は価格か、内容か、タイミングか
4つの問いに答えられる状態になっていれば、集客への支出は「届け方」の投資として判断できます。答えに詰まる問いがあれば、そこが先に手を入れる場所です。
一人で数字を並べるのが難しいときは
支出の判断は、金額の大小ではなく、単価・粗利・必要件数・回収期間という数字の並べ方を知っているかどうかで変わります。ノルツの起業支援では、月額顧問型で毎月伴走しながら、こうした数字の見方づくりを一緒に進めています。気になることがあれば、LINEまたはお問い合わせフォームからご相談ください。
よくある質問
起業したばかりで売上が少ないときも、月々かかるツールや広告にお金を使っていいのでしょうか?
金額だけで決めず、その支出を回収するのに何件の受注が必要かを計算してから判断する方法があります。支出額を1件あたりの粗利で割れば必要件数が出ます。その件数が現実的な受注ペースから大きく離れていれば、金額を下げるか別の手段を検討するという判断ができます。また、資金の残りを見て、何ヶ月分までなら続けられるかの上限を先に決めておくと迷いにくくなります。
成果が出るまで時間がかかる施策は、創業期に始めても大丈夫でしょうか?
ノルツ株式会社代表・原本は、SEO対策について最低でも数ヶ月、できれば半年以上の時間的猶予がある状態で着手するのが望ましいと話しています。資金が尽きかけた状態から始めると、成果が出るまでに事業が続かなくなる可能性があるためです。逆に、資金に余裕のある早い段階は積み上げ型の施策に着手しやすいタイミングといえます。
交流会の参加費は、費用対効果をどう測ればいいですか?
その場で売れた件数ではなく、相手の事業を理解して協業の話ができたか、紹介につながる関係ができたかで見る方法があります。代表・原本は、起業して何年も経っている人に集客経路を聞くと「紹介です」という回答が圧倒的に多いと話しており、交流会は協業相手や紹介してもらえる関係を作る場として活用することをすすめています。
支出が経費になるかどうかの税務上の判断も、同じように考えていいですか?
税務上の取り扱いは、この記事で扱っている投資判断(費用対効果の見方)とは別の論点です。経費として認められる範囲や処理の方法は制度や個別事情によって異なるため、2026年9月時点の情報として、国税庁のタックスアンサーなど公式情報を確認したうえで、税理士などの専門家に相談してください。
参考・出典
- 国税庁 タックスアンサー No.2210 やさしい必要経費の知識(2026年9月時点)
- 国税庁(税務上の取り扱いに関する公式情報)(2026年9月時点)
- J-Net21(中小企業基盤整備機構)(2026年9月時点)
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