この記事の要点
無自覚な人に「気づき」を売るのは、マーケティング上もっとも難しく、ほぼ不可能に近い領域です。自分の課題に気づいていない人はお金を払わず、気づいてもらう教育に膨大なコストがかかるからです。筆者はミッション策定事業で「満足度は高いのに新規集客が全くできない」矛盾を経験しました。事業選定では競合の有無より先に「すでに課題に気づいている人がいるか」という需要の前提を確認すべきです。
新規事業を考えるとき、「競合が強い市場は避けたい」と思うのは自然なことです。強い相手がひしめくレッドオーシャンで戦うより、誰もいない場所を見つけたい。私(代表・原本)も、まさにそう考えて突き詰めていった結果、ある落とし穴にハマりました。この記事では、私が実際に体験した「満足度は高いのに、まったく集客できなかった」事業の話から、事業選びで見落としがちな「需要の前提」についてお話しします。
「競合のいないビジネス」を探すと、何にたどり着くのか?
まず出発点として、私は「競合がひたすら強いビジネスはやるべきではない」と考えていました。これ自体は間違っていないと思います。実績もリソースも乏しい創業期に、体力勝負の市場に飛び込むのは分が悪い。だから、競合のいない場所を探そうとしました。
「競合がひたすら強いビジネスというのはやるべきではありません」
ところが、「競合のいないビジネス」を突き詰めて考えていくと、多くの場合、おおよそお金にならない方向へと進んでいきます。なぜなら、競合がいないということは、そもそもそこに市場(=お金を払う人)がまだ形成されていない、ということでもあるからです。そして私がたどり着いたのは、「気づいていない人に、気づきを売る」というタイプの事業でした。
「競合のいないビジネス…考えていくと気づいてない人に気づきを売るっていうそういうビジネスに結構なりがち」
「ミッション策定」を実際に提供してみて、何が起きたのか?
私が具体的に取り組んだのは、「ミッション策定」を提供する事業でした。経営者やこれから起業する人の志を言語化して、事業の軸をつくるお手伝いです。競合はほとんど見当たらず、提供する価値には自信がありました。そこでトライアルとして提供してみたのです。
結果は、はっきり二つに割れました。トライアルで受けてくれた方の満足度は、非常に高かったのです。「やってよかった」「頭が整理された」と喜んでもらえました。提供している中身そのものには、確かな手応えがありました。ところが――新規集客が、まったくできませんでした。受けてくれた人の満足度は高いのに、新しくお客さんを集めることができない。既に受けてくれた人が満足しているのだから商品は悪くないはずだ、それなのになぜ次の一人が来ないのか。この矛盾に、私は正面からぶつかりました。
「ミッション策定提供した人すごい満足度高かったんですけれども、新規集客が全くできなかった」
「満足度が高い」と「集客できる」は別物
提供した相手の満足度が高い=商品の質は良い、という証拠。
しかしそれは「新しくお客さんを集められる」こととは別問題。
質の高さと集客のしやすさは、必ずしも一致しない。
なぜ満足度が高いのに集客できないのか?——「必要だと気づいている人」は、すでに持っている
なぜ、こんな矛盾が起きるのか。考え抜いて見えてきたのは、需要の構造そのものにある「ねじれ」でした。ミッションが必要だと気づいている人は、すでに自分なりのミッションを持っている人なのです。逆に、ミッションを持っていない人は、そもそもミッションの必要性に気づいていない。
「ミッションが必要だと気づいている人はミッションを持っている人…持っていない人はミッションの必要性に気づいていない」
つまり、私の商品を本当に必要としているはずの「ミッションを持っていない人」は、その必要性に気づいていないので買おうとしない。一方、価値を理解して買ってくれる「気づいている人」は、もう自分で答えを持っているので、あまり必要としていない。売りたい相手には響かず、響く相手はもう要らない。この構造こそが、「満足度は高いのに集客できない」矛盾の正体でした。
なぜ無自覚な人に「気づき」を売るのは、マーケティング上もっとも難しいのか?
この経験を通じて痛感したのが、「気づいていない人に気づきを売る」=認知レベルが無自覚の人に売ることは、マーケティング上もっとも難しい、という事実です。人は、自分が困っていると自覚していないものにはお金を払いません。まず「あなたには課題がある」と気づいてもらう教育から始めなければならず、その手前で膨大なコストがかかるのです。
「気づいていない人に気づきを売るっていうのは、マーケティング上最も難しい…ほぼ不可能」
もちろん、完全に不可能というわけではありません。もし無自覚層に広く気づきを届けることに成功すれば、何百億・何千億、あるいは何兆円という規模のマーケットを新しく生み出せる可能性すらあります。まだ誰も気づいていない需要を掘り起こすわけですから、当たれば市場を丸ごとつくり出せる。夢のある話ではあります。ただし、その裏側では、人々を教育し認知を変えるための広告に、同じくらい――何百億という規模のお金がかかります。「まだ困っていると思っていない人」に「あなたには課題がある」と伝え、行動を変えてもらうところまで持っていくには、それだけ膨大な費用と時間が必要になるからです。潤沢な資金を持つ大企業ならともかく、リソースの限られた一人社長や創業期の起業家が最初に選ぶ場所ではない、というのが私の結論です。
事業選定では、需要の前提をどう確かめればいいのか?
この失敗から得た教訓は、とてもシンプルです。事業を選ぶときは、「すでに課題に気づいている人がいるか」を必ず見る、ということ。無自覚の人に商品を売るのは「ほぼ不可能」だと思っておいたくらいがちょうどいい。競合がいない市場に惹かれる気持ちは分かりますが、その「競合のいなさ」が、実は「まだ誰も欲しがっていない」ことの裏返しになっていないか、疑ってみる必要があります。
逆に言えば、多少の競合がいる市場は、そこに「お金を払う気のある、気づいた人たち」が確実に存在するという証拠でもあります。ゼロから需要を生み出すより、すでにある需要の中で「自分ならではの提供の仕方」で選ばれる方が、創業期にはずっと現実的です。競合を避けることばかりに気を取られると、いつの間にか「需要のない場所」に足を踏み入れてしまう。これは、私が身をもって学んだことです。
誤解してほしくないのは、「競合が強い市場に真正面から飛び込め」と言っているわけではない、という点です。実績もリソースも乏しい創業期に、体力勝負のレッドオーシャンへ突っ込むのは、やはり分が悪い。避けるべきなのは、あくまで「競合がひたすら強い市場」です。だからこそ、極端な二択で考えないことが大事になります。「競合が強すぎる場所」でも「そもそも需要がない場所」でもない、その中間――すでに困っている人が確かにいて、なおかつ自分の強みで違いを出せる余地が残っている場所を探す。事業選定とは、この“ちょうどいい隙間”を見つける作業なのだと、今の私は考えています。
「この事業、そもそも需要があるか」を一緒に見極めます
良い事業アイデアに見えても、需要の前提を見誤ると集客で行き詰まります。ノルツの起業支援では、「気づいている人がいるか」という視点から事業の勝ち筋を一緒に検証し、選定を伴走します。事業を本格化する前に、まずは気軽にご相談ください。
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