起業して間もない頃、交流会や経営者団体に顔を出すと、決まって耳に入ってくる言葉がありました。「補助金って、国からお金がもらえるんですよ」「事業計画は丸投げで大丈夫。やりましょうよ」。資金に余裕のない創業期に、このフレーズはとても魅力的に聞こえます。私もその空気に押されて、補助金を一度申請したことがあります。結論から言うと、十数万円を受け取るために、私は合計でおよそ2週間という時間を溶かしてしまいました。その一部始終と、そこから学んだ判断の基準を、正直に共有します。
そもそも補助金とは何か
まず前提を整理します。補助金とは、本来「国がこういう方向に事業を進めてくれる人を募集します。その方向で取り組んだ人に、経費の一部を補助します」という制度です。つまり、国が描く政策の方向性と、自分の事業を合致させて初めて使えるもので、けっして「もらえるお金」ではありません。ここを「タダでお金がもらえる」と勘違いしたまま走り出すと、後で苦しくなります。
もうひとつ重要なのが、補助金は基本的に「後払い(精算)」だという点です。先に自分でお金を払って事業を実施し、後から経費の一部が戻ってくる。当時の私のように資金的な余裕がない段階では、この「一度は全額を自分で出す」という仕組みそのものが、地味に重い負担になります。
「丸投げでOK」という甘い誘いには乗らない
私が最初に警戒してほしいのは、まさにこの「事業計画は丸投げで大丈夫」という誘い文句です。誰かに丸投げして通る計画は、自分の事業の実態とずれていきます。仮に採択されても、そのあとの実施と報告は自分でやらなければならず、結局は自分が困ることになります。私自身は嘘の内容を書いたわけではなく、あくまで自分で申請しました。それでも、人に勧められるまま「補助金ありき」で動いてしまった時点で、判断を誤っていたと思います。
誘い文句のチェックポイント
「国からお金がもらえる」「計画は丸投げでいい」——この2つがセットで出てきたら、いったん立ち止まってください。補助金は、自分の事業の方向性に合っていて、かつ自分で計画を語れることが大前提です。
私が小額で申請して、消耗した一部始終
当時の私は、もともと展示会への出展を予定していました。そこで「展示会に出展します。その経費に補助金を使ってチャレンジしてみます」という形で申請することにしました。使ったのは小規模事業者持続化補助金です。サポートしてくれる方と契約し、実際に申請・出展まで進めました。
使った金額と、戻ってきた金額
実際に出展したのは比較的安価な展示会で、用意したのもポスターなど最低限のものだけ。経費はトータルでおよそ20万円(15〜20万円ほど)に収まりました。補助率はおよそ3分の2だったので、戻ってくるのは十数万円という計算です。本来この補助金は、経費75万円に対して50万円が戻ってくるような枠を使えるものでした。ところが私には大きな経費を使う予定がなく、サポートの方の勧めもあって、結果的に20万円規模の小額申請になってしまったのです。
実績報告で、2週間が消えた
補助金は、採択されて事業を実施したら終わり、ではありません。そのあとに「実績報告」が待っています。展示会で使った資料、当日の写真、さまざまな証憑を集めて提出する必要があります。私は説明をきちんと理解できていなかったうえ、展示会への出展自体が初めて。たまたま写真は撮っていたものの、不慣れな作業に資料集めが重なり、想像以上の手間がかかりました。気づけば、十数万円を受け取るために、合計でおよそ2週間を費やしていました。時給ならぬ「日給1万円」ほどの作業になっていた計算です。
何が問題だったのか
振り返ると、問題は「補助金の金額」ではなく「規模と費用対効果の見極め」でした。補助金は、申請から実施、そして実績報告まで含めて一定の手間が必ず発生します。その手間は、補助額が小さくてもそれほど変わりません。だからこそ、戻ってくる金額が小さいほど、手間に対する割が悪くなるのです。小額の補助金は、創業期の限られた時間を考えると、むしろ本業を圧迫しかねません。
創業期にいちばん足りないのは、お金そのものよりも「時間」と「集中」だと、私はあとから痛感しました。実績報告のために慣れない資料を集めていた2週間、本来ならお客様に向き合ったり、サービスを磨いたりできたはずの時間です。お金には金額という分かりやすい数字が付きますが、こうして失われる時間や集中力には値札が付きません。だからこそ見落としやすく、気づいたときには「あれ、これ何のためにやっていたんだっけ」となりがちです。補助金は、その見えにくいコストまで含めて初めて、本当の費用対効果が見えてきます。
補助金を「使う・見送る」の判断軸
この経験から、私は補助金についてこう考えるようになりました。使うなら、枠を活かせる規模で。小規模事業者持続化補助金なら、75万円の枠をしっかり使い切るくらいの計画があって初めて、手間に見合います。本来、補助金は数百万円から1,000万円、2,000万円といった規模の投資に対して活きる制度です。逆に、そこまでの経費を使う予定がないのであれば、無理に補助金を取りにいくより、その時間を本業に集中させたほうが、創業期はよほどリターンが大きいと感じています。
補助金そのものを否定したいわけではありません。制度の趣旨に合い、適切な規模で使えば、強力な後押しになります。大切なのは、誰かの誘い文句ではなく、自分の事業計画と費用対効果で判断すること。なお、補助金の要件や補助率・上限は年度や公募回によって変わります。実際に申請する際は、必ず最新の公募要領や専門家で確認してください。
補助金を検討する前に、自分に問いたい3つのこと
同じ失敗を避けるために、いま起業前後の自分に伝えるとしたら、次の3つを先に考えてほしいと思います。どれも特別な知識は要りません。自分の事業と正直に向き合うだけです。
1. その経費は、補助金が無くても使う予定だったか
「補助金がもらえるから」を理由に経費を増やすと、判断の順番が逆になります。本来は「事業に必要だから使う、その一部がたまたま補助される」が正しい順番です。補助金ありきで使い道を作った時点で、私のように規模が中途半端になりがちです。まず事業計画があって、その中で枠を活かせるかを考える——この順番を崩さないことが第一歩です。
2. 枠を活かしきれる規模か
補助金は、用意された枠をしっかり使い切るくらいの投資があって、ようやく手間に見合います。小規模事業者持続化補助金のように上限がある制度なら、その枠に近い経費を計画できるか。本来は数百万円規模の投資に対して活きる制度だ、という前提を思い出してください。「少しだけ使う」が一番割に合いません。
3. その時間を本業に使ったら、何が進むか
申請と実績報告にかかる時間を、もし本業に充てたら何が前に進むかを想像してみてください。新規のお客様への提案、サービスの改善、発信。創業期はそちらのリターンの方が大きいことが多いです。比べたうえで、それでも補助金の方が価値が大きいと言い切れるなら、堂々と申請すればいいと思います。
「これ、うちは使うべき?」を一緒に整理します
補助金を使うべきか見送るべきか、創業期は判断に迷うものです。ノルツの起業支援では、こうした「お金と時間の使いどころ」の相談にも、実体験をふまえて伴走します。一人で抱えず、まずは気軽にご相談ください。
