この記事の要点
自分の体験だけを発信のネタにするモデルは、想像よりずっと早く限界が来ます。私自身、起業してからのストーリーなら「半日か1日ぐらい話せるんじゃないか」と見込んでいましたが、実際に体験をリストアップして話しはじめたら、すぐにネタが尽きました。解決策は、自分語りをやめて他者から一次情報を引き出す側に回ることです。ヒアリングなら、相手の数だけ体験が集まります。
情報発信を続けている経営者が、同じ壁にぶつかることは少なくありません。最初の数本は勢いよく書けるのに、ある時点から「今日は何を書こう」で手が止まる。私も同じでした。この記事は、ノルツ株式会社代表・原本が、自社の起業支援サイトを自分の体験ネタだけで運営しようとして早々に行き詰まり、そこからヒアリングによる一次情報の収集に切り替えた体験をもとに書いています。ネタ切れの正体と、他者から体験を引き出すための具体的な手順をお伝えします。
自分の体験談は、発信のネタとしてどれくらい持つのか?
想像よりはるかに短い、というのが私の実感です。起業してからのストーリーは「半日か1日ぐらい話せるんじゃないか」と思っていたのに、実際に書き出してみるとあっという間に底が見えました。
私がやっていたのは、この起業支援サイトの運営方法そのものです。「私自身が体験したもの、どんどんネタを出していって、それをAIで解析して記事化してもらって、それをコンテンツにしています」というやり方でした。SEO対策の作業はAIをかなりの範囲で使えるので、書く工程は回ります。詰まるのは、その手前のネタ出しでした。「実際に体験をリストアップして、それで話していこうとしたら、すぐにネタがつきました、正直なところ」——これが当時の正直な結果です。
なぜこれほど早く尽きるのか。理由は単純で、自分の人生は一つしかないからです。10年、20年のキャリアがあっても、記事1本にできるレベルの「はっきりした転機」は、思っているほど多くありません。日々の細かい判断は本人にとって当たり前すぎて、ネタとして認識されないまま素通りしていきます。
| 自分の体験をネタにする | 他者から聞き出してネタにする | |
|---|---|---|
| ネタの総量 | 自分の人生1人分で打ち止め | 会った人数分だけ増える |
| 枯渇までの速さ | 早い(リストアップするとすぐ頭打ちになった) | ヒアリングを続ける限り増やせる |
| 掘り出しやすさ | 自分のことは客観視しづらく掘りにくい | 第三者だから素朴な質問ができ、掘りやすい |
| 独自性 | 高い(一次情報) | 高い(一次情報。他社が持っていない) |
大事なのは、どちらも一次情報だということです。ネタ切れを、他人の記事の要約や一般論で埋めてしまうと発信の価値が落ちます。埋めるべきは「まだ誰も文字にしていない体験」であって、それは他者の中に眠っています。
なぜ自分の体験は、自分では引き出しにくいのか?
自分で自分の体験を掘り出す作業は、他者に聞くのとは性質がまったく違うからです。私の言葉で言えば、自分自身の体験を自分で引き出すのは「ちょっとまた特殊なことになるので難しかった」というのが実感でした。
難しさの中身は3つあります。第一に、自分の判断は自分にとって当たり前なので、話す価値があるとみなせません。値段を決めた、断った、外注した——どれも本人には「普通にやったこと」です。第二に、都合の悪い記憶は無意識に薄まります。失敗談ほど読まれるのに、失敗談ほど自分では思い出しにくい。第三に、聞き手がいないので「それはなぜですか」と突っ込まれません。深掘りの起点になる素朴な疑問が、自分の中からは出てこないのです。
逆に言えば、他者に対してはこの3つがすべて逆になります。相手が当たり前だと思っている判断も、こちらには珍しく映る。相手が流した失敗も、こちらは掘りたくなる。そして「なぜそう決めたんですか」と何度でも聞ける。ネタが尽きる問題は、話し手を自分から相手に変えるだけで構造的に解けます。
ヒアリングで一次情報を引き出すには、何から始めればいいか?
特別な資格や機材は要りません。必要なのは、相手が自分の体験を話しやすい状態を作ることと、話の中から具体を引き出す質問だけです。私はクリエイティブ提供の仕事で、お客様の体験や考えを引っ張り出し、整理し、話せる状態にするヒアリングをずっと続けてきました。その技術がそのまま、発信のネタ切れ問題の解決に使えると気づいたのが転機でした。
実際にやる手順は次のとおりです。
- 目的を先に伝える。「発信の材料として、あなたの経験を記事にさせてほしい」と最初に言います。目的が曖昧なまま聞くと、相手は当たり障りのない話しかしません。
- テーマを1つに絞る。「起業について」ではなく「値段をどう決めたか」まで絞ります。範囲が広いほど答えは抽象的になります。
- 時系列で聞く。「そのとき何があったか→どう考えたか→何をしたか→どうなったか」の順で追いかけます。感想から入ると一般論になります。
- 数字と固有名詞を必ず拾う。「安く受けた」ではなく「いくらで受けたのか」。ここが記事の説得力になります。
- 録音して、あとで文字にする。その場でメモを取ることに集中すると、深掘りの質問が浮かびません。記録は機械に任せます。
- 公開範囲を確認して終える。社名を出していいか、金額を出していいか、その場で決めておきます。後から確認すると記事が止まります。
この6つを意識しておくと、1回のヒアリングから記事にできる素材が残ります。特に4番の「数字と固有名詞」を拾えたかどうかで、あとから記事にできるかどうかが決まります。
相手が「特に話すことはない」と言うときは、どう聞けばいいか?
話すことがないのではなく、何を話せばいいか分からないだけです。抽象的な質問をやめて、場面を指定して聞き直すと出てきます。「何か面白い体験はありますか」と聞かれて即答できる人はほとんどいません。
効く質問と効かない質問を並べると違いがはっきりします。
| 出てこない質問 | 出てくる質問 |
|---|---|
| 起業して大変だったことは何ですか | 直近1年で、いちばん寝られなかった日は何がありましたか |
| 集客はどうしていますか | いま一番売上が大きいお客様は、最初どうやって出会いましたか |
| 値決めで気をつけていることは | これまでで一番「安く受けすぎた」と思った案件はいくらでしたか |
| 成功の秘訣は何ですか | やらなければよかったと思っていることはありますか |
右側に共通しているのは、期間・順位・金額のどれかで範囲を切っていることです。人は「いちばん」「最初」「いくら」と限定されると記憶を検索できます。逆に「大変だったこと」のような広い問いは、検索範囲が広すぎて答えが返りません。
それでも止まったら、こちらの体験を短く出します。「私は最初の値決めで失敗して、相場より下げても売れませんでした」と自分の失敗を先に置くと、相手も失敗を出しやすくなります。ここでのポイントは短く出すことです。長く話すと、こちらが話し手になってしまい、ネタは増えません。
聞いた話を、どうやって記事の一次情報にするのか?
聞いた内容を録音から文字にし、「事実」「数字」「発言」の3つに分けて素材カードとして残します。この分解をしておくと、あとで記事にする段階で盛らずに済みます。
私の運営では、ヒアリング音声を文字にしたうえで、課題・背景/とった行動/数字・固有事実/転機・気づき/学び・教訓/引用、という項目に分けた素材カードを作っています。記事を書くときは、その素材カードに書いてあること以上のことは書きません。ここを守らないと、記事は読みやすくなっても事実から離れていきます。
- 録音を文字起こしする。ここはAIに任せて構いません。
- 「数字・固有事実」を最初に抜き出す。金額・期間・件数・回数。原文どおりに写し、丸めない。
- 本人の言い回しをそのまま引用として残す。整えた要約より、生の言い方のほうが伝わります。
- 1回のヒアリングから、切り口を複数立てる。同じ話でも「失敗談」「手順」「考え方」で読者の検索意図が変わります。
- 公開前に本人に見せる。事実誤認と、出したくない情報をここで潰します。
AIを使うのは2番以降の整理と記事化の部分です。ネタ出しそのもの、つまり一次情報を取ってくる部分は人にしかできません。ここを外注もAIも代替できないと理解しておくと、発信の運用設計を間違えずに済みます。
ヒアリングは特別な技術ではない
私がやっているのは、クリエイティブの仕事で日常的にやってきたこと——お客様の体験や考えを引っ張り出し、整理して、話せる状態にする——と同じです。相手の事業をよくするために話を聞く姿勢さえあれば、質問の型はあとから身につきます。逆に、ネタを取ることが目的になると相手に伝わり、話は浅くなります。
他者の体験を発信に使うとき、気をつけることは何か?
相手の信用を借りている自覚を持つこと、そして事実を盛らないことの2点です。ヒアリングで得た話は自分の手柄ではありません。
具体的には次を守っています。第一に、公開前に本人確認を取る。第二に、金額や社名など特定につながる情報は、出す・出さないを本人に決めてもらう。第三に、話を分かりやすくするために数字を丸めたり、印象的にするために誇張したりしない。「2週間」を「1か月近く」と書いた時点で、それは一次情報ではなくなります。第四に、相手にとってのメリットを用意する。記事に名前とリンクを載せる、思考が整理される場として使ってもらうなど、聞かせてもらう対価は何らかの形で返します。
この4つを守っていれば、ヒアリングは一方的にネタをもらう行為ではなくなります。私が伴走支援でお客様の話を聞くときにも、「頭が整理された」という感想をいただくことがあります。聞く側と話す側の両方に価値が残る形にすることが大事です。
発信のネタ出し、一緒にやります
ノルツの起業支援では、経営者ご本人の体験を聞き出して言語化するところから伴走しています。「発信を続けたいがネタがない」「自分の何が価値になるのか分からない」という段階の方こそ、一度話しながら整理してみてください。
まとめ:ネタは自分の中ではなく、相手の中にある
自分の体験だけで発信を続けるモデルは、想像より早く限界が来ます。私自身、「半日か1日ぐらい話せるんじゃないか」と見込んでいた起業ストーリーが、リストアップしてみるとすぐに尽きました。サイト更新が止まる懸念から、このSEO対策サービス自体が難しいかもしれないと一瞬考えたほどです。
そこで気づいたのが、「私自身がヒアリングをすれば、人の体験はたくさん引き出せるんだな」ということでした。話し手を自分から相手に変えるだけで、ネタの総量は会った人数分に増えます。テーマを絞り、時系列で聞き、数字と固有名詞を拾い、録音して素材カードに分解する。この流れを回せば、一次情報は枯れません。
ネタ切れは、発信をやめる理由にはなりません。自分の中を探すのをやめて、聞きに行く側に回る。それだけで続けられます。
関連記事
自分の体験だけで発信すると想像より早くネタが尽きる|起業家の発信ネタ切れ対策
一人社長がAIに任せる業務と自分でやる業務の線引き
伴走支援で一番よく言われる変化は「思考整理」
営業せず「見つけてもらう」集客|セミナー・登壇・ピッチの活用
